増原メッセージ:(9)日本化学会主催 第3回CSJ化学フェスタ:パネルディスカッションの為のアンケートから
日本化学会主催 第3回CSJ化学フェスタが、2013年10月21日(月)〜23日(水)に、タワーホール船堀)で行われました。シンポジウム「ナノ機能への挑戦−材料、素子、バイオ、そして未来−」は、 13件のテーマ企画の一つで、三つの新領域研究グループ「ナノスケール分子デバイス」、「有機合成化学を起点するものづくり戦略」、「液相高密度エネルギーナノ反応場」の12件の講演からなり、 最後にパネルディスカッション「若手とベテランで語り合うナノ機能の未来」(セッションオーガナイザー、京都大学植村卓史)が持たれました。そのパネルディスカッションにおいて、 増原はパネラーを務めましたが、その際事前にアンケートに意見をまとめるよう要請されました。その際書いたものをアップロードします。 トピック1:ナノ科学について 大学でしかできない研究、国立研究所でしかできない研究についてそれぞれの立場から述べてください。 大学でしかできない研究: ナノ科学のための新しい方法論開発、それを駆使した新現象探索、見つかった現象のダイナミクスとメカニズムの解明。 国立研究所でしかできない研究: ナノ科学を産業技術として実現するための基盤研究。 トピック2:私にとってのナノ科学・テクノロジー 皆様が抱いているナノ科学・ナノテクノロジーに対するイメージを述べてください。また、有機化学、無機化学、物理化学、 その他の分野から見たナノ科学・ナノテクノロジーについて、忌憚なきご意見で述べてください。 化学における新しい方法論の開発と分子ダイナミクスの概念創出をその役割とする物理化学にとって、ナノ科学・ナノテクノロジーは新しい発想の種を与えている。 化学の各研究分野にとっても同じであろう。ナノをキーワードとすることで、化学研究と化学技術開発が加速している。リアルな系をナノレベルで理解し、ナノレベルで制御する研究が重要と考えている。 トピック3:ナノ科学における異分野連携について ナノ科学は複数の分野にまたがる学問分野です。異分野連携の面白さや難しさなど、皆様が日ごろ抱いている意見や思いを述べてください。 ナノ科学研究においては、有機も無機も、合成も測定も、ひいては物理学も化学の区別も最終的にはない。「レーザーバイオナノ科学」と称している私の研究は、 光科学技術側からナノ物質のダイナミクスを調探索解明する融合研究の一つともいえるが、光科学としてもナノ科学としても、新しい協奏的研究が展開できている。 トピック4:〇〇年後のナノ科学・ナノテクノロジー 例えば、30年後にはこんな凄いものが出来て、世の中がどのように変わっているかの想像を述べてください。 今後光科学技術とナノ科学の融合により、リアルな系のナノレベル制御が進む。数十年後には、各種機能材料、セキュリティー材料、センサー、デバイスの多くが、 さらには簡単な生物個体、体内器官の光制御が実現している。それに基づく装置開発、医療技術の開発が行われているだろう。 トピック5:人材育成について 大学や国研ではどのような人材を育てなくてはいけないか?また、ご自身の人材育成ポリシーなどを述べてください。 二つあると思う。一つはいわば夢見る科学者を育てることで、つねに新しい発想で世界をリードする研究成果をだし、 世界に先駆けて次の時代の科学技術の分野を作り出す人材の育成である。二つ目は、夢を夢で終わらせるのではなく、 夢を実現することのできる人材の育成である。大学の教授、JSTのERATOやさきがけプロジェクトの研究総括として、 私は前者の育成ポリシーに沿った貢献をしてきたが、後者のポリシーに関わる人材育成が最近の傾向と認識している。 トピック6:研究について、最も感動した瞬間 予想と全く違うものができたが、それが凄かったとか、科学者になろうと決心した出来事などについて述べてください。 古い話で恐縮だが、私が今の道に進もうと決心できるに至った記憶について記す。レーザーは1960年に発明され、1968年に阪大基礎工の化学教室にナノ秒ルビーレーザーが導入され、 光化学反応ダイナミクスの研究が始まった。日本の化学の研究室としては極めて初期の一つである。又賀昇(故人)教授は当時博士課程の1年生であった私に、 「将来はすべてのランプはレーザーにとって代わられる、レーザーを使った化学研究には無限の可能性がある。」と話された。実際私が測定するナノ秒時間分解分光のデータは、 分子系の光電子移動過程を時々刻々追跡できるという、大きな感動を私に与えてくれた。その後から現在まで45年間にわたる光化学、分子科学の研究は、 又賀先生のお言葉の通りの展開を見せている。私もレーザーのポテンシャルを化学研究に生かすことで研究を発展させてきた。レーザーが私を刺激し続けたように、 ナノ科学は今の若い世代に多くのセレンディピティーを与えていると感じている。 トピック7:どのような研究者になろうと思ってここまで来たか(ベテラン)、どのような研究者になろうと思ってこれから努力するか(若手) (会場には若い学生が多くいると思うので、そこに届くメッセージを考えてください。) 又賀先生の予見の通り、レーザーは化学研究において高いポテンシャルを持っていることは、若い頃の私にもすぐ理解できた。 レーザーは決して手放すまいと思ったが、又賀先生がレーザーを駆使して確立された励起状態化学とは別の、私ならできる「レーザーならではの化学」 を開拓したいと考えて努力してきた。したがってメッセージとしては、次のようになります。科学技術の大きな流れを把握し、その中で自分の得意技を磨き、 常に他との区別化を図り、自分ならではの発想で新化学現象の発見に努めてください。小さくても早目のサクセス経験が、若い人を奮い立たせます。
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